SPY
- Tomoya Abe
- 7月16日
- 読了時間: 1分

向いていない場所ほど 潜入先としては都合がいい 笑うタイミングを盗み 相槌の角度を覚え この国の人間らしい顔を 鏡の前で練習する 居心地の悪さは 警報装置によく似ている 眠りかけた本能を起こし 失敗の足音を拾わせ 今日も僕を 僕のままでいさせる 本来いるべき場所なら きっと愛されただろう 言葉は通じ 癖は個性と呼ばれ 呼吸ひとつにさえ 許可はいらなかった けれど僕は そこへ帰らない 敵地の食事を覚え 苦手な会話を飲み込み 似合わない制服の内側に 秘密を縫いつけている 馴染んだわけではない 正体を忘れたわけでもない ただ 自分にないものを奪うには 自分ではいられない場所まで 行かなければならなかった 誰にも疑われず 誰にも理解されず 拍手と監視の隙間を歩く 帰還命令は まだ届いていない あるいは最初から 帰る場所など 存在しなかったのかもしれない それでも今夜も 僕は他人のふりをして 僕にしか持ち帰れないものを 探している。



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