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ただ北へ行く

  • 執筆者の写真: Tomoya Abe
    Tomoya Abe
  • 7月17日
  • 読了時間: 2分

差し出されたものが 温かいほど 手を伸ばせなくなった 欲しかったはずの言葉も 眠るための場所も 僕を待っている灯りも 今になって どこか他人の幸福に見える 昔は 幸せになりたかった 愛されて 失ったものを取り戻して 穏やかな朝のなかで 長い夜を忘れたかった けれど 気づけば願いは 別の形に変わっていた 幸せになりたい、ではなく ただ強くなりたい 何から守るためでもない 誰かを救うためでもない 強くなった先に 何があるのかさえ もう考えていない 南には 花が咲いているらしい 誰かと暮らす家があり 争わずに済む言葉があり 少しくらい自分を曲げても 笑っていられる季節があるらしい たぶん それを幸福と呼ぶのだろう それでも僕は 北へ行く 正しいからではない 報われるからでもない 寒さのなかでは 余計なものから順番に 凍っていく 期待 未練 愛されたいという願い 最後に残ったものだけが きっと僕なのだと思う 不幸を選びたいわけではない ただ 幸福のために妥協するより 不幸のなかで 一つも譲らないほうがいい 抱きしめられる未来より 背負うと決めた宿命を 救われる結末より 自分で選んだ孤独を この道の先に 国境があるのか 海があるのか 世界の果てしかないのか それさえ知らない 目的地など 初めからなかった 風向きだけを確かめて 襟元を閉じる 帰る場所の灯りが 背中で小さくなっていく 振り返らない ただ北へ行く


 
 
 

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