No Pain, No Life.
- Tomoya Abe
- 7月17日
- 読了時間: 2分

幸福になりたい、
と何度も口にしてきた。
広い部屋、
好きな仕事、
愛されているという確信。
眠る前に明日を嫌わなくて済むような、
清潔で、よく整った人生。
そのために傷ついてきたはずなのに、
傷が塞がりはじめるとなぜだか少し、
退屈になる。
不幸はもう招かれざる客ではない。
勝手に冷蔵庫を開け、 僕のグラスで水を飲み、 昔からここに住んでいたような顔でソファの真ん中に座っている。
追い出したいと思う。
けれど、
いなくなった部屋を想像すると妙に広すぎて、
落ち着かない。
痛みの中ではまだ何者かになれる気がした。
負けた理由も、
立ち上がる意味も、
憎むべき昨日も、
越えていくべき明日もあった。
幸福は優しい。
だから、
ときどき残酷だ。
「もう戦わなくていい」
と温度のちょうどいい湯を張って、
僕の輪郭を少しずつ溶かしていく。
安心してください。
ここでは誰にも笑われません。
大きな失敗もしません。
ただ、大きな夢も見なくなるだけです。
そんな人生を平穏と呼ぶのなら、
僕はまだうまく馴染めそうにない。
傷つかない道を選ぶたび、
自分から遠ざかっていく。
だからといって不幸を愛しているわけじゃない。
ただ、痛みのない場所では心臓の音まで借り物に聞こえるのだ。
もっと欲しい。
もっと高く。
もっと遠く。
幸福の向こう側にある幸福を追いかけて、
また膝を擦りむいて、
血の味で生きていることを確かめる。
天国へ向かうつもりで地獄ばかり選んでしまう。
それでもぬるま湯の底で静かに完成するくらいなら、
未完成のまま、
何度でも壊れていたい。
No Pain, No Life.
痛みが人生なのではない。
痛みさえ失うほど眠ってしまうことが、 僕にはいちばん恐ろしい。



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