弱アルカリ性の恋
- Tomoya Abe
- 7月16日
- 読了時間: 1分

あなたは毒ではなかった 触れた瞬間に痛むほどの わかりやすい悪でもなかった 白い泡を立てながら 私の汚れを落としてくれた 昨日の失敗も 古い恋人の指紋も 自分を嫌いになった夜の脂も きれいになったね、と あなたは笑った 私は 愛されるほど透明になり 透明になるほど 何も持たなくなった あなたはいつも清潔だった 嘘をつくときさえ 洗いたてのシャツの匂いがした 大声を出さない 物を投げない 浮気もしない ただ少しずつ 私の表面を溶かして あなたに都合のいい なめらかな人間に変えていった 弱アルカリ性の恋は すぐには痛くならない むしろ最初は ぬるくて やさしくて ずっと触れていたくなる だから私は 手が荒れるまで あなたで私を洗い続けた ひび割れた指先を見せても あなたは心配そうに また泡を足すだけだった 「まだ汚れが残っているから」 その言葉を 愛情だと思っていた頃の私は たぶん とてもきれいだった 別れたあと 久しぶりに自分の匂いがした 花でも 香水でもない 少し酸っぱくて 生き物らしい匂い 私はそれを 洗い流さずに眠った あなたは毒ではなかった 私も被害者ではなかった ただ 素手で触れ続けるには 少しだけ強い恋だった。



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