潤いをください
- Tomoya Abe
- 7月16日
- 読了時間: 2分

彼女がほしい。 そう言うと、 ずいぶん安っぽい願いに聞こえる。 休日を埋めるためとか、 寂しい夜に電話するためとか、 誰かに見せびらかすためとか。 そういう乾きなら、 水道水でも飲んでいればいい。 僕がほしいのは、 暮らしの湿度を変えてしまう人だ。 届いたメッセージひとつで 帰り道のネオンが少し滲んで、 なんでもないコンビニの新商品を 君にも教えたくなるような。 待ち合わせの一時間前から 街が伏線を張りはじめ、 別れたあとの静けさまで ひとつの物語になるような。 恋人という役職がほしいんじゃない。 空席を埋めたいわけでもない。 僕の人生に 匂いと艶と、 取り返しのつかない季節をください。 整えた部屋も、 買ったばかりの服も、 少しだけ上手くなった仕事も、 ひとりで完結させるには ちゃんとできすぎてしまった。 幸福は足りている。 たぶん、生きてもいける。 それでも 傘をひとつしか持たずに 二人で雨を歩くような、 非効率で、 美しい失敗がしたい。 僕を救わなくていい。 欠けたところを埋めなくていい。 ただ、 乾いた日々の表面に触れて、 そこにまだ 光を反射する余地があると 教えてほしい。 愛されたい、 だけではない。 愛することでしか育たない自分を、 一度くらい 本気で見てみたいのだ。 だからこれは 寂しさからの求人ではない。 平凡な人生を 平凡なまま輝かせるための、 静かで贅沢な野心である。 潤いをください。 できれば、 簡単には乾かないものを。



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